1月20日から四日間のスケジュールで開催された、2013年春パリオートクチュールコレクション。オートクチュールの衰退が囁かれてから早数十年が経過していますが、現在もスペクタクルなショーをするメゾンや、デザイナー交代により息を吹き返すメゾン、新規参入のメゾンなど、少ない参加ながらも顧客を唸らせる素晴らしいクリエイションが見られました。
プレタポルテが主流の現在でも、予算と時間をつぎ込んだ力作揃いの11メゾンをレビュー。
Alexis Mabille
若干36歳のアレクシス・マビーユ(Alexis Mabille)のデザインするオートクチュールコレクション。いつもロマンティックな物語的要素を多く取り込んだデザインなのは、ディオールやガリアーノで修行を積んだ経験をもつ彼ならでは。現在クチュールのトレンドとなっている繊細なレースは、モダンなフォルムにデザインされ、揺れ動くシルクシフォンは女性を極上に美しいボディラインに見せてくれ、素敵な服ばかり。全体を通して素材の柔らかさが際立っていて、フェミニンでフレッシュなコレクションでした。
Armani Prive
ジョルジオ・アルマーニがデザインする、アルマーニ・プリヴェ(Armani Prive)のコレクション。 中東をイメージしたオリエンタリズム溢れる魅惑的な服を送り出したアルマーニは、色使いも鮮やかで素材の光沢感もすさまじく、月の光を浴びる夜のイスタンブールといった感じ。アルマーニお得意のパンツルックもパネル加工や構築的な刺繍が施されるなど、さすがクチュールクオリティ。年齢層高めの顧客を満足させるアイティムがいっぱいでした。
Atelier Versace
先シーズンのオートクチュールからショー形式を復活させたドナテッラ・ヴェルサーチのデザインするアトリエ・ヴェルサーチ(Atelier Versace)。兄ジャンニ・ヴェルサーチのクリエイティビティを引き継ぎながらもフェミニンでリアリティある方向へと移行し、現在もセレブファンが絶えないオートクチュールラインですが、今回はネオンカラーをポイントにストロングウーマンの連打攻撃。一見なにげなく見えるパンツスーツにも24金のラインが埋め込まれていたり、ミンクを短く刈り込んだ贅沢な装飾をストライプに配置したタンクワンピなど、リッチとミニマムを大変見事にミックス。ヴェルサーチお得意のイブニングドレスの素材がチープに見えたのが唯一心残りでしたが、極上の素材使いやボディをリメイクするカッティングはさすがでした。
Giambattista Valli
ジャンバティスタ・バリ(Giambattista Valli)のデザインするオートクチュールは、前回の赤&緑のコレクションとは打って変わってフェミニン思考にシフト。前半のアニマル系パターンをイメージした刺繍やプリントのデイリーなウェアの出来栄えは、大変安定感がありビリオネアーも購買意欲が進むアイティムがずらり。後半のパステル中心のドレスは、ラフ・シモンズのディオールに影響されたか?と思うようなミニマムフラワーデコレーションドレスなどがお目見えしましたが、総じて着れる服を輩出する意気込みは高感度大でした。
Elie Saab
ビヨンセを筆頭に、セレブに愛される服が得意なエリー・サーブ(Elie Saab) のクチュールライン。いつもの強さをやや控えめにし、レースやビーズ刺繍の手仕事を全面に打ち出した、ウルトラフェミニンでロマンティックなコレクションでした。カラーパレットは、ライトミント、ライトベージュ、ライトラベンダーなどパステルを多用し、アクセントに朱赤とブラックのコンラストの配色。ちょっと見間違えるとここ数シーズンのヴァレンティノのコレクションと瓜二つ感は否めないですが、売れ筋勢揃いのレッドカーペット向きのドレスや社交界対応型ルックが見事でした。
Chistian Dior
ラフ・シモンズがディオール(Chistian Dior)のデザイナーに就任して二回目のオートクチュールコレクション。意外にも前回のクチュールがセレブに大人気だったようで、レッドカーペットでもディオールが多く見られましたが、豪華絢爛ウルトラ極上なレッドカーペットでは、やや素っ気ない印象を受けました。 今回は二回目とあって、ディオールのニュールックの呪縛から一歩踏み出した感あるデザインが見受けられ、華やかさも少し出て来たかなと言った具合。ミニマリストの不思議な点として『まだ縫製の途中ですか?』的な不可解なデザインが多く、極上極めるオートクチュールではミニマムの方向を違った見せ方で考え直さないと、なんだか中途半端に見えてしまいがち。もちろんディオールというビックメゾンのお針子さん達が長年の技術を惜しみなく出しているので、実際の製品は素晴らしいと思うのですが、戦後の服が満足に買えなかった時代に大量の布使いで顧客の心を奪ったあの興奮と夢を現代のディオールにも是非取り入れて欲しいと思いました。と言いつつ、1/3くらいは凄く好きなデザインで、最後のお花刺繍ドレス群は大変美しかったです。
Chanel
毎度デザイン点数ナンバーワンのメガメゾン、シャネル(Chanel)のオートクチュールコレクションでは、特に最近の流れからは大きく変化はないものの、その一点一点のディテールが凝りに凝っててとてつもなく魅力的。シャネルの場合は、ツイード、カメリア、CCマーク、白&黒、ベージュといった、ブランドスタイルが出来上がっているので、それさえ多用すれば多少外れたデザインしたってシャネルに見えてしまうのが凄いところ。ただそれだけでは飽き足らず、素材開発や数百時間かけて刺繍を施したミラクルツイードなど、一般人には想像もつかないクリエイションが潜んでいるのも、世界中の顧客を惹き付けるシャネルならではのプレゼンテーションでした。
Jean Paul Gaultier
日本でもバブル時代に人気があったジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)。あの時の攻撃的でゴシックな印象は影をひそめ、ゴルチエ感いれつつもシックで上質な作風になってきたここ数年。今回は大好きなオリエンタルリズムを取り入れ、神秘的なジュエルカラー満載のカラーパレットが大変美しかったです。1997年春夏からオートクチュールに参戦して15年目の節目の年でしたが、誰もが納得するクオリティで、カトリーヌ・ド・ヌーブもお気に入り。80年代にマドンナに衣装提供したコーンブラのコルセットドレスは、毎回フォルムをアレンジし、ゴルチエのアイコンドレスとして登場していました。中東イメージが大好きな彼らしく、ジプシーのテイストも極上に表現されていました。
Maison Martin Margiela
豪華絢爛女性美を打ち出す他のメゾンとは真逆のコンセプトで、アート街道まっしぐらなメゾン・マルタン・マルジェラチーム(Maison Martin Margiela)が発表した二回目のオートクチュールコレクション。ウェストラインなど全く無視した筒状のワンピースが多く見られ、単調なシルエットながらもファブリックに時間を費やしたようで、 キャンディの包装紙を縫い付けた最後のルックは、70時間を費やしたそう。。。かなりコンセプチュアルな服なので、モードの実験室であるクチュールとはいえ着る人はいないだろうと思いきや、サラ・ジェシカ・パーカーが着用していたのが衝撃でした。(上段右から2番目のレッドシルクドレス)
Ulyana Sergeenko
ロシアの大富豪の妻であり、カメラマンであり、スタイリストであり、モデルであり、ブロガーであるウリヤナ・セルギエンコ(Ulyana Sergeenko)が作る、デビューして二回目のコレクション。 様々な職種を持つ彼女がこんな素敵なコレクションをいつ作っているのか?と疑問にも思いましたが、風と共に去りぬやトムソーヤーの冒険あたりの1870年前後の時代の服を現代的にモダンアレンジ。デコルテの抜き具合や、パフスリーブのキッチュなデザイン、サテンを多用する布使いは、忘れもしない1998年春夏のステラ・マッカートニーがデザインしたクロエのコレクションや、ガリアーノがディオールに就任して間もない頃のデザインを思い出させましたが、クチュール溢れる技術を盛り込みながらも軽やかに表現できているのは、若いビリオネアーの顧客を増やすだろうと思わされました。それにしても肩書きが凄まじいデザイナーですね。大富豪って凄い。
Valentino
マリア・グラツィア・キウリとピエール・パオロ・ピッチョーリが作り出す、ヴァレンティノクチュール(Valentino)。19世紀のベネチアの模様からヒントを得たという刺繍は、500時間、850時間を費やしたものなど、一着の衣装にかかる制作時間としてはかなり異例なスーパードレス達。2008年よりデザインを担当している彼らの評価は年々アップし、レッドカーペットでも若手女優や大富豪に好んで着用されています。最初は引退したバレンティノ・ガラバーニの作風とは大きくクリエーションが違う事や、力量不足が囁かれていましたが、ここ最近のデザインはそんな噂があった事さえ忘れてしまうくらいの領域にまで行き着いた感じ。ネックから肩の作りや、独特なラインのクリノリンスカートなどは、アレキサンダー・マックイーンが好んだデザインも多く見られましたが、期待を裏切らないヴァレンティノレッドもお目見えし、ファンにも現代の顧客にも期待を裏切らないスーパーコレクションでした。
今シーズンは大好きなジバンシーのクチュールコレクションの発表がなかったのが残念でしたが、新旧入り乱れてのクリエイションが見れて大満足でした。日常的に着るプレタポルテとは違って、一部の大富豪やセレブしか買う事の出来ない超高級仕立て服であるクチュールには、現代もまだ夢がいっぱい詰まっているようでした。